千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)を知ったのは、毎晩のように酒を飲んで自堕落な生活をしていたころ。テレビでたまたま放送されていたのを見て、衝撃を受けたのを覚えています。
千日回峰行とは、奈良県の吉野山(よしのやま)でお坊さんが行う修行のこと。比叡山でも行われていますが、吉野山のほうが険しくキツいようです。
修行の内容は、標高差:1,355mある山道を1日たりとも休むことを許されず48㎞の距離を往復し続けるというもの。毎年5月3日から9月3日の4カ月が修行期間で、9年の歳月をかけて行います。
紐を含めて全てが白い死出装束に身を包み、わずかな食事と水、そして短刀を携えて山道を歩きます。短刀は護身用ではなく、修行を続けることができないと判断したときに自害するためにあるもの。
これだけ過酷な修行を、1,300年の歴史の中で満了したのはわずか2人。そのうちの1人が「塩沼亮潤大阿闍梨(しおぬまりょうじゅんだいあじゃり)」です。
1991年に大峯千日回峰行に入行し1999年、無事に満行されました。そんな塩沼大阿闍梨の姿を見て感動し、私も何かに挑戦しなければと突き動かされたのは自然のことでした。
あれから何年か経った2019年元日。「1日も休まず走り続けよう」と決意しました。そして、2021年9月26日。1日も休まず走り続けて1,000日が経ちました。
せっかくなので、これまでにどう取り組んだかを記録しておこうと思い記事にします。役立つ情報にはなっていないかもですが、なにか感じていただける人が1人でもいれば嬉しいです。
もし、ランニングを習慣化するポイントが知りたい人は、こちらの記事もあわせて読んでくださいね。
これまでの私
ダイエットをきっかけにランニングをはじめましたが、走ることが習慣化できていませんでした。酒を飲んだ次の日は特にダメで。それが続けば当然、走ることなんてできず何カ月も走らないなんてこともざらでした。
そんなだから、マラソン大会に出ても完走はおろかDNF(ディーエヌエフ = 途中で棄権すること)もありました。酒が飲みたくて翌日のレースをDNS(ディーエヌエス = 出場を辞退すること)したことさえも。
ダメダメな自分を変えたい。ランニングを習慣化したい。そのためには酒をやめようと思い断酒にチャレンジしました。
断酒すると、定期的に走るようになるし筋トレもするようになりました。食事をはじめ生活習慣も見直して、10kg以上のダイエットもできました。
しかし、それも長くは続かず半年ほどでスリップ(再飲酒)して自堕落な生活に逆戻り。そうなると、全く走らなくなるし体重もリバウンドします。そんな生活を繰り返しました。
スリップする度に、酒の飲みかたは酷くなり自己嫌悪から鬱っぽくもなってきます。毎日のように酒をやめたいと思いながら酒を煽る。そんな生活に嫌気がさしたピークの2017年6月、スパッと断酒しました。
そこからは酒を1滴も飲むことなく、今に至ります。おかげで定期的に走れるようにもなりました。ただ、ちょっと休むとサボり癖がついてしまうこともしばしば。夏は暑いからと数カ月で0kmなんてことも…
せっかく断酒したのに、これじゃあ意味がない。そんなときに、Twitterで「#千日回峰行」とハッシュタグをつけて毎日走るランナーを見かけました。
950日を過ぎたあたりだったでしょうか。雨が降っても毎朝もくもくと走り続けるその人がカッコよくて、投稿を追いかけました。1,000日に到達した日。喜びの投稿を見て私も嬉しくなったことを覚えています。
塩沼大阿闍梨がやった千日回峰行には遠く及ばなくても、Twitterで見かけたランナーは同じくらい輝いていました。これならできるかも。そんな思いで、私の千日回峰行はスタートしました。
2019年1月1日にスタート
チャレンジは、静かにスタートしました。SNSで「今日から1,000日、1日も休まず走ります!」なんて宣言することもなく。自分自身に対しても、最初から1,000日なんて高い目標は設定しませんでした。
というのも「今日からやりますっ!」と宣言して三日坊主になることが過去に何度かあったので不言実行でいこうと。あと、自分に対しても変に気負うと絶対プレッシャーになると思いました。
1日1kmでもいいから毎日、走ろう。それを1,000日続ければ同じこと。それくらいだったら、大きな目標をプレッシャーに感じることもなく今日だけに集中できる。ハードルをグッと下げられると考えました。
走りはじめの数週間は、寒いやら雨が降ってるやら言い訳を探してサボろうとしましたが「習慣化すればこれが当たり前になる」と自分に言い聞かせて走りました。
慣れないうちはふくらはぎが痛くて弱音を吐くこともありました。そんな時は「日常生活で歩けるのだから走れるはず」と檄(げき)を飛ばして少しばかりの距離をゆっくり走りました。
そんな調子で8月までは、毎月:250〜300kmくらい走りました。身体も絞れて筋肉もついてきたので、秋以降のレースが楽しみでした。
しかし、同時進行でやっていたダイエットが停滞気味でモチベーションの維持が難しくもなりました。
ランニングは1日1kmでもOKとハードルを低くしていましたが、ダイエットはその逆。体脂肪率を1桁台にするぞと高い目標を設定していたので、なかなか達成できずストレスを溜めていきました。
ストレス発散に手をだしたのが甘いもの。特にアイスクリームとチョコレートにどハマりし、毎日アホな量を食べました。そのせいで、少しずつ体重は増えて2カ月で7kgほど戻りました。
日に日に増えていく体重と体脂肪率にショックを覚えて、走るモチベーションも下がり続けました。レースに向けて走り込みをしないといけない時期に、1日1kmしか走らない。そんな日が増えていきました。
11月に走った「いびがわマラソン」は、記録更新はできたものの満足いく結果ではありませんでした。もっとできたハズ。後悔が募りました。
それでも、年始に立てた目標をなかったことにはできず走り続けました。2020年も目前。そこで気持ちを仕切り直そう。そう考えました。
2020年
反省点は多くあったけど、2019年は1日も休まず走ることができた。今年は少しハードルを上げよう。そう考えて、1日10km以上走ることを目標にしました。そしてもう一つ。できる限りワラーチで走ろうとも。
ワラーチは、7〜10mmのゴム板にヒモを通しただけの簡素なランニングシューズ。既製品もありますが、簡単に作ることができて一部に熱狂的なファンもいます。他でもない、私がそうです。
ワラーチで走ると、特にふくらはぎの筋力アップとミッドフット走法やフォアフット走法が身につきます。人間本来の走り方を獲得できる。そんな言われかたもされます。
強くなりたい。人間本来の走りを獲得したい。そんな思いで、寒い冬でも裸足にワラーチ(ついでに短パン)というスタイルで走りました。
コロナウィルスの影響でレースは軒並み中止になりましたが、モチベーションを途切れさすことなく5月まで経過。毎月:350〜400kmくらい走りました。
6月に入ってからはもう少し負荷を上げようと、1日15km以上走ることにしました。しかし、これが裏目に出てしまい足底筋膜炎を発症することに。未だに完治しないでいるきっかけを作ってしまいました。
足底筋膜炎はランナーに多いスポーツ障害です。足の裏が炎症を起こして着地するたびに激しい痛みが伴います。特に、朝起きて最初の1歩がとにかく苦痛で私も同様に苦しみました。
原因の一つに走りすぎがあるようで、私の場合もこれに該当しました。症状を和らげるには休足が必要。調べればどこにでもそう書いてあります。しかし、休むことなんてできませんでした。
6月は月間:500kmを超えましたが、さすがに1日15km以上なんて走れない。そう考えて、7月以降は1日10kmにしました。そして、走るペースもかなりゆっくりめで。
走りはじめは「イタタタッ!」なんて言いながら足を引きずってましたが、2〜3kmも走ると気にならなくなりました。血行が良くなるからなのかアドレナリンが出るからなのか、理由は分かりませんがね。
我慢をしながらでもどうにか走れていましたが、もう少し楽に走れないものか。ワラーチが良くないのかも。そう思い、ビギナーにもオススメのランニングシューズを購入しました。
アシックス「GEL-KAYANO」。これまでベアフットタイプのランニングシューズばかり履いてきたので、クッション性に衝撃を覚えました。痛みがかなり和らいで楽に走れるようにもなりました。
それでも無理はしないで、1日10kmをキープして走り続けました。継続できたおかげで10月に走った「六甲縦走キャノンボールラン」で1時間近くタイムを更新できました。
そして2020年の12月。ランナー専用SNS「ラントリップ」をはじめて、多くのランナーと繋がるきっかけとなりました。このころになってようやく1,000日が現実的となり、公言するようにもなりました。
2020年は、私の中で1番しっかり走り込みができた年。100点満点をあげてもいいくらいの内容でした。ここまできたら、1,000日達成しよう。そう意気込んで2021年を迎えます。
2021年
2021年は、昨年の目標を更新することもなく1日10kmを目標に走ろうと決めました。それと、足底筋膜炎もずいぶんよくなってワラーチで走れるようにもなっていたのでこれを維持しようとも。
昨年までと大きく違うのは、SNSに走った記録をアップすることでリアクションをもらえるようになったこと。Facebook・Twitter・Instagramから距離をとっていたので、久しぶりの感覚に嬉しくなりました。
SNSで背中を押されたこともあって、モチベーションが途切れることなく走り続けられました。4月に走った「多度山トレイルラン」はスピードにも乗れて、これまでで1番いい走りができました。記録も満足。
その後のレースはコロナの影響もあって延期や中止が続きましたが、6月に走った「モントレイル戸隠マウンテントレイル」は課題が残るレースとなりました。食事のタイミングと暑さ対策が重要と痛感しました。
9月のレースにエントリーしていたので、しっかり暑さ対策をしておこう。そのためにも、暑い昼間に距離を走ってスタミナをつけよう。そう考えて、休みのたびにロング走やトレランに出かけました。
真っ黒に日焼けして暑さにも慣れてきた8月の後半、レースの中止が発表されました。目標にしていたレースだけにショックはありました。でも、走ることに対してモチベーションが途切れるほどではありませんでした。
こうなったら、きっちり1,000日走りきって次のレース「六甲縦走キャノンボールラン」を楽しめる走力をつけておこう。そう気持ちを切り替えて走り続けました。
9月に入ると、1,000日まで残りわずかとなりました。SNSでやり取りさせてもらってる人達からも楽しみにしていると声が寄せられるようになりました。そして、2021年9月26日。ついにこの日を迎えます。
2021年9月26日、1,000日を迎える
1,000日目の2021年9月26日。名古屋は朝から大粒の雨が降っていました。これまで走り続けてきたおかげでシャワーランが好きになっていたので、これは私にとってご褒美かも。そんなことも思いました。
ただ、天狗のお面 + 1本下駄で走ろうとネタを温めていたので少し様子をみることに。雨雲レーダをチェックしましたがしばらく雨は上がりそうになかったので、ある場所へ向かうことにしました。
名古屋市東区にある「片山神社」。江戸時代末期に天狗が住んでいたとのいわれがある神社です。神田明神のお囃子にも深い縁があるようで。
大雨の中、天狗のお面をつけて慣れない1本下駄で走るのはちょっと… そこで、天狗にゆかりのある片山神社で記念写真を撮ることにしました。
どうして天狗なのか? 鞍馬山で大天狗が源義経に平家討伐の兵法を授けた話は有名ですが、険しい山の中でそれをした身軽さと強さに憧れがありまして。山に強くなりたいという思いで天狗にあやかりました。
雨が降る中、片山神社での撮影。途中、参拝にこられた人が私をみてギョッとして固まったのがハッキリ分かりました。ただただ申し訳なかったです。
撮影を終えてからは、いつものワラーチスタイルでシャワーラン。6kmでしたがサクッと走り、1日も休まず1,000日走り続けるチャレンジを無事に終えることができました。
感謝
ここまで走ってこられたのは、1人の力だけではありません。SNSを通じて多くの応援と刺激をいただき、背中を押してもらえました。身近な人には支えられて、励ましてもらえました。
そして、休足日もないまま大きなケガもなく走り続けてくれた身体。その全てがあってこそ、この日を迎えられたと思います。この場を借りて、本当にありがとうございましたと感謝したいです。
これからの目標
1日も休まず1,000日走ることが目標になっていたら、これで燃え尽きてしまったかもしれません。ですが、1日も休まず走り続けたら1,000日に到達した。そんな感覚でいるので、これで終わりではないです。
これからも身体が動く限り、1日も休まず走り続けていきます。どこまでいけるか、自分でもワクワクしています。そして、それを一緒に楽しんでくれる人たちとワクワクを共有していきたいです。
まとめ
私にとっての千日回峰行は、このような形でフィニッシュを迎えました。
思い返せば、台風で街が冠水した日にジャブジャブ水をかき分けて走ったこともありました。高熱が出てぶっ倒れても、フラフラしながら1kmだけ走ったことも。車にはねられそうになったことも何度かありました。
そうまでして早く走れるようになったかと言えば、答えはNOです。早く走れるようになるためには練習に強弱をつけたほうが良くて、休足も必要です。
ただ、1日も休まず走り続けたことは自信に繋がったように思います。メンタルが鍛えられた感じ。それは、走ることに関係ないところにも通じるハズです。
すでに新しいチャレンジへの1歩を踏みだしました。どこまで記録を伸ばせるのかは分かりませんが、そこにこだわることなく走り続けていきたいです。最後まで、ありがとうございました。